2004年09月25日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編 total 2804 count

迷宮の百年睡魔 森博嗣 幻冬舎

Written By: 川俣 晶連絡先

 女王の百年密室(感想)に続く百年シリーズの第2作、ということになると思いますが。

 長期間読まずに放置したことを後悔する内容ですね。

 特に、この第2作は、人と機械の境界が限りなく曖昧になっていく展開が示唆され、映画「イノセンス」に近い世界を描いていると思います。それだけでなく、個人の境界の曖昧さまで話が進みます。それによって、「一人」では実行できない「自殺」も可能になります。

 何より凄いのが、濃厚に暗喩される倒錯したエロスですね。

 死んだ恋人の女性の身体を持つ男性。その女性に執着する別の男性に言い寄られ、しかも薬を盛られて人形のようにコレクションされてしまうという展開。女の身体を持つ男から見て、激しく男から言い寄られる感覚とはいかなるものか。それが嫌悪であることは間違いありませんが、女の身体にとっては、男は相性の良い対象です。けして、男の心が望む女性との愛に適した身体ではありません。その点で、嫌悪が絶対化しきれない隙が生じます。しかし、その隙は、肯定することができません。なにせ、好きな女性に言い寄る男は恋のライバル、あるいは横恋慕する迷惑な奴と言うことになります。それは、何をおいても肯定できない相手であると言えます。その上で、それほど嫌悪する相手から一切を強制される立場への変化。しかも、眠り続け一切の抵抗ができない状況に陥ることにより、嫌悪がマゾ的な快感につながりかねない危うさが示唆される状況。更に、それに対するとどめは、人形コレクターで、主人公も人形のようにコレクションした男が、ウォーカロンつまり人形の一種であるという痛烈な逆説。

 それはさておき、ウォーカロンのロイディというキャラクターは実に面白いですね。このキャラクターの面白さは、独特です。そして、彼が主人公の救いになっていることは間違いありませんね。